【宮城ゆかり的膝栗毛】南アフリカでクルマを買う

宮城ゆかり的膝栗毛

 マクドナルドも、ヴィトンも、トイザらスだってあるケープタウンだけど、何かふべん・・・。
 いや、ヴィトンには入ったことないけれども。

 ずっとそう思ってきた事だけど、今回答えのひとつをみつけた。すごくわたくしごとだけれど、車がない!

 東京に住んでいた頃ももちろん車は持っていなかったけど、みんながそう思わないように、縦横無尽に広がる巨大地下迷路、東京メトロさんとJRさんのおかげで私もそれを不便に感じたことはなかった。

 一時間に電車が三回、池袋まで行く沿線の終点に住んでいた頃は、もちろん車は超必需品で、たとえ居酒屋に行くのにも愛車のオデッセイで出かけていた。だってうちの近所の居酒屋には必ず駐車場があるし。

 ケープタウンはすごく近代的で開けた街だとはいえ、公共交通機関という点では滅法弱い。
 電車は、ちょうど熊手のような格好でケープタウンを支点として、南と西に3~4本伸びるだけ。そのほかの足といえばミニバスと呼ばれる乗り合いワゴン車しかない。

 市内の至るところで見かけるミニバス。ちなみに現地の人はみんなタクシーと呼ぶ。(日本人的に言う本当のタクシーはキャブ)私を含める庶民の生活には欠かせないもので、市内であればどこでも一律5ランド、郊外まで行く場合は距離に応じて6~10ランド程度を支払うのだが、こいつがなかなか曲者なのだ。

 どんなに急いでいても座席がいっぱいになるまで発車してくれないし、一人下車したら、その席を埋めるため、牛の歩みのようなスピードで歩道沿いを進んでいくから、乗っているこちらはたまらない。ただでさえ小さな車内で大きな・・・というかハッキリ言って、日本だったら確実に病院に送られるくらい超超超太った人達に囲まれ身動きはとれず、お母さんのスーパーの袋からこんにちはしている泥のついたにんじんの葉っぱに顔中撫で回されたり、大概横で赤ちゃんは泣いてるし、若者はイヤホンなしで音楽を聴いてたりするのだから。

 しかも、午後7時を過ぎると市内こそ走っているが、郊外からミニバスはぱたりと消えてしまうのです。7時なんて日本ならまだちょうどサザエさんが終わったところくらいなのに。良い子も起きている時間なのに。

 そうした苦痛を耐え忍ぶこと、遅刻を繰り返すこと、早10ヶ月。
 この度、わたくし、宮城ゆかりはこの大好きなケープタウンにもっと居たいという願いをこめて、車を買うことを決意しました!
 言うまでもなく、中古です。

 さて、南アフリカ人はどうやって車を探すかというと、ガムツリーというサイトを使います。インターネットカフェに行けば、三人に一人はこれをやっているってくらいものすごくメジャーなものです。ちなみにあとの一人はフェイスブックで、もう一人はユーチューブを大概見ています。そのサイトでずばり見つからないものはありません!車を買うのも家を探すのもパソコン売るのも就職活動も、挙句の果てには彼女だって見つかるのです、しかもタダで。

 平たく言えば無料掲示板みたいな感じのもの。
 つい最近も、レジェンドが携帯のカメラで撮った、ついに動かなくなった車の写真をそのサイトに載せて車を売って、動かない車をそこから買っていた。アフリカ人の考えていることはたまにちょっと謎。

 とにかく、中古車を買うにあたっての心構えを現地の人に聞いてみたところ、みんな口をそろえていったのは、『中古を買うならドイツ車、新車を買うなら日本車』
 つまりはベンツやBMW、アウディの事らしい。

 それを聞いた私はびっくり。だって私の予算は20万だったから。20万円でベンツやBMWなんて買える訳ない!

 できれば安い日本車を買いたいのだということと予算を恥を忍んで伝えると、返ってきた答えは意外なもので、日本車の方が高い、との事。まさか、と思ったがよくよく聞けば、納得。ここはヨーロッパの植民地だったくらいで、ドイツ車の工場も多々あるらしい。丸々輸入の日本車と地元工場からくるドイツ車。新車価格はほとんど一緒らしい。

 ただ違うのは、ドイツ車の方がより丈夫で長持ちするし、ゆったりした作りだがパーツが高いのに比べ、日本車は小さくて軽くてガソリン代とパーツがうんと安いということ。同じ位最先端の技術を持つ二つの国だけど、面白いくらい方向性が違うよね、というのがみんなの意見。

 したり顔のアフリカ人からTOYOTAがどうとか、HONDAはこうだとか、DAIHATSUはなんだとか、説明を聞くのは何だか変な感じ。アフリカ人のが日本人の私よかよっぽど詳しい。また日本が一段とまぶしく見えた。

 だから、購買層が全然違うのだと加える。中古の日本車はこれでもか、と乗り回してくたびれたのしか見つけられないけれど、新車のドイツ車のオーナーは大概が車好きでメンテナンスもきちんとなされているものが多いからやっぱり中古車を買うならドイツ車だ、と言い切る。

 それに、経済的な日本車はみんなほしいから中古でも値段はあまり下がらないし、盗難の可能性もうんと上がるのだとか。
 日本ではそんなこと気にもしないけど、これはすごく大事なポイント。そうか。せっかく無い袖振って買う車を泥棒さんにプレゼントするのはしゃくだ。そういえばこれまでに車やバイクを盗まれたって言う話を嫌というほど聞いた。やっぱり日本車はやめた!

 そしてドイツ車に狙いを定め、車探しに奔走すること一週間。毎日パソコンとにらめっこして電話をかけまくる。良いかも!と思う車は掲載2時間後にかけるともう売れた、なんて話はざら。写真ではすごく綺麗だったのに、いざ見てみると座席の革が座りすぎでびりっびりに破れて綿が飛び出していたり、フロントガラスがなかったり(誰が買うのだろうか)、走行距離が40万キロなんて車にも出会ったし、焦って翌日の午後にオーナーとアポを取ったものの、彼が住んでいたのはヨハネスブルグだったなんてこともあった。行ける訳ない。飛行機でも2時間かかるのに。

 ゆかりにドイツ車なんて豚に真珠だったか!?と半べそになっていたとき、遂に出会ったのが白のベンツ124。後頭部とお尻がさびて小さな穴が開いているし、エンジンのかかりは悪いし、右後ろのパワーウィンドウは『閉』ボタンを押すとするすると窓が開きはじめるし、左後ろは開かない。走行距離は27万キロだけど、ここの中古車には珍しく綺麗なクリーム色の革のシートが無傷なのが気に入った。

 ひとつ返事でベンツを貰いうける約束を取り付け、ATMへ走る。一回に3万円しか下ろせないここのATMは本当に不便。同じ動作を5回も繰り返して得た紙の束をこれでもかと握り締め、愛車の元へ走る。それを待ってましたと、めっちゃ嬉しそうに待ち構えるオーナーのジョン。そしてその足で運輸局へ。ハンバーガーでも注文するような気軽さで、名義変更で!といってお金代わりにパスポートを差し出すとものの2~3分でぺろんと一枚の紙が小さな窓から差し出される。

 紛れもない私の名前がそこにあった。

 私は、アフリカでベンツのオーナーになった。

 未だに5分以上正座はできないし、日本酒の美味しさもいまいち分からないし、ブラジャーのホックも正面からでないとつけられないけど、もう私は子供じゃないのかもしれない。

 ベンツと一緒に大人としての自覚とか責任感もしょいこんでしまった気持ちになった。
 こいつと一緒に、アフリカでもっとふんどししめてがんばらなければ。

 こいつはもうおじいちゃんなんだから、ちゃんとメンテナンスして、大事に乗ってくれよ、
 なんてジョンの言葉がもはや聞こえなかったのは言うまでもない。


著者プロフィール

宮城ゆかり宮城ゆかり
1985年9月6日生まれ / 埼玉県出身

山崎豊子さんの二つの祖国に感銘を受け法律に興味を持ち、法律家を志すもあっさり挫折。かろうじて大学卒業後、OLになるものの一年で挫折。類い稀なる健康体で小学生以来風邪も引かず、虫歯もなく、チャレンジ精神が旺盛なのが取り柄だが先読みが足らず後悔することが大半。
ケープタウンが大好きだけれどおばあちゃんの冷や汁も恋しいと思う24歳。
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(最終更新: 8月 24 日 23:21)



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