南アフリカ共和国ケープタウン発カルチャー&ビジネスニュース

ここにあって、日本にない。
大好きだけど、大嫌い!!
な、今回はチップについて書きたいと思う。
ここ、ケープタウンでウエイトレス、バーテンダーの時給というのは本当に安い。まともに丸一日働いたって交通費と、三食食事を摂ったらいくらも残らないようなすずめの涙ほどのランドが月末に銀行にまとめて振り込まれるだけ。
ではどうやって私たちが生計を立てているかというと、そう全てはチップから!
誠心誠意をこめてサービスして、その満足度に応じて支払われるチップが私たちの生活の糧なのだ。
だからみんな本当に必死。日本みたいにただ、指定されたテーブルに物を運べばいいってもんじゃない。早く、美しく、正しい場所に給仕し、常に気を配る。悪い言い方をすると常にお客様のご機嫌を取り続けなければならない。
おかわりはいかがですか?
新しいナプキンをお持ちしますね。
デザートメニューをお持ちしても宜しいでしょうか?
すべて問題はありませんか?
私もこの一年足らずで舌がすり減るほどこの類の単語を使ってきた。
時には言語の壁にぶつかって、うまく給仕できず、1ランドもチップを払ってもらえなかったり。(限られた自分の持ちテーブルに座られ、限られた時間を割いて給仕してチップを支払ってもらえないということはウエイターにとってただ働き以下の赤字同然なのである。)
ある時はまた、今夜あなたがウエイターで良かった!!というウエイターにとって最上の賛辞と総支払額の25%を超えるチップを貰ったり。(標準的なチップの支払額は10%、20%を超えるいうことはお客様がとても満足したという証なのだ。)
最初は大嫌いだった。チップという文化が。だって同じ時間働いているのに、誰かは500ランド稼いで、その一方である者は0だなんて不公平ではないか。
でもやっぱり稼ぐ者はそれなりの理由があるもので、最近は私もやっと、あなたのテーブルに座るよ!とお客様に言って頂ける様になった。なるほど、だからレジェンドのテーブルはいつでも忙しかったのだ。彼のテーブルはいつでも、彼のテーブルに食事をしに来たお客さんでいっぱいなのだ。
また、マネージャーも、そのウエイターの能力に応じてテーブルを振り分ける、有能なウエイターには、人気のあるテーブルをたくさん任せる。なるほど、だからシンディはいつも人気の窓際のテーブルを担当するのだ。
お客様そのものがすなわち即、今夜の夕食代になるわけだからみんな真剣だ。時にはテーブルを争ってけんかになるし、テーブルの売買さえする。どういうことかというと例えば、「このテーブル、イギリス人四人を午後三時から給仕していて、会計は今のところ800ランドで、もうメインコースは食べたから後はデザートオーダーと、会計を待つだけ、でも俺は今日はランチしか働かないからもう帰りたいんだけど、50ランドで、このテーブル買わない?問題なく給仕したから会計伝票をテーブルに持っていくだけで30ランド以上は確実に手に入るよ!」なんて。そんなばかげた話、私は乗ったことはないが。
かといってウエイターがいつでも稼ぐのかといえばもちろん、ノーだ。
ランチタイム、ディナータイム以外の時間はお客さんはまばらだし、その上ランナーと呼ばれる、つまりはアシスタントウエイトレス、(彼らは注文などは取らず、食器を下げたり、グラスを並べたりのみをする。)に一定額のチップを毎回支払い、その他にも総売り上げの1%、つまりは総チップ額の10%前後をバーテンダーにも支払わなければならない。例えチップを貰えなくても、だ。
また、ウエイター自身の能力以外にも誰に給仕するか、が実は一番重要だったりする。やっぱり一番チップを弾むのはアメリカ人、イギリス人、そして日本人!!
余談だが、日本人はレストラン業界では最上級のお得意様なのだ。一切苦情を言わず、静かで、きれいに食事をし、チップを弾む。こんな民族他にいない!とアフリカ人も大絶賛なのである。やっぱり外国人に日本人をほめられると嬉しいもので、こんなときは本当に日本とその文化を誇りに思う。
しかし、他のアジア諸国の評判はすこぶる悪く、私自身もそれを痛感している。特に南北に分断されたお隣の国の方々を給仕したときは参った。20人の団体でお越しになった彼らは飲み物を一切頼まず、水道水をピッチャーで各テーブル二回お代わりした後、セットメニューに含まれるパンと、パスタとパスタソースを各人三人前召し上がり、輪切りレモンをボウル単位で要求し、皮を撒き散らした後、コチュジャンと見たこともないこちらも真っ赤な缶詰までもを広げ、平らげ、これでもかというほどやりたい放題散らかして10%にも満たないチップを置いて帰って行った。
あまりの厚かましさに開いた口が塞がらない私に、みんなが彼らやインディアンはいつもこうさ、と首をすくめ教えてくれた。みんなもう、諦めているみたいだ。
世界中から観光客が訪れるケープタウンならではであろう。彼らは皆知っている、日本人と韓国人のファッションの違いだけでなく、フランス語とドイツ語のイントネーションの違い、スペイン人とブラジル人の顔の違いも。同じヨーロピアンでもイギリス人は上客だけれど、フランス人は注文が多いとか、ドイツ人はすぐクレームをつけるとか、イタリア人は***とか。
痩せているたれ目を狙え!とも教わった。彼らいわく、それが日本人で、同じアジアンでも背が低くて化粧っ気が全くないのが中国人で、黒縁めがねと、プリントTシャツを着ているのが韓国人らしい。ふむ、言われてみるとそんな気がしなくもない。何人なのかを瞬時に的確に見極めることも即、現金につながるからみんな良く知っている。上客が来れば最上の笑みを湛え、手をこまねいて自分の席に案内し、難しそうだったり、けちそうなお客様が来れば是非自分の席には座ってくれるな、と祈る。
大嫌いだったチップという制度、今はそれもなかなかいいものだと思う。1ランドでも多くのチップを貰いたい一心でメニューを暗記し、ワインの知識も深めたし、いかに気持ちよく食事をしてもらうかを毎日苦心した。今でも生まれて初めて貰ったチップはお財布に入っているし、そしてきっと一生忘れない、とびきりの笑顔とチップをくれたお客様達を。たくさんのお金が入る喜び以上に彼らが私を好いてくれたこと、サービスに満足してくれたことが何よりも嬉しいことなのだ。
でもそれ以上に今思うことはチップがなくても、見返りを求めず働く日本人の勤勉さだ。今まで気づかなかったけれど、それってすごいことなのでは。
もしこの国が、日本と同じシステムを導入したら、誰もが給仕するのを押し付け合い、接客も投げやりになり、テーブルなんか誰も拭かないだろうし、レストラン業界そのものが傾くに違いない。
以前に誰かが言った、チップなしで働くなんてまるで奴隷だ、と。人は環境によって作られると私は思っているが、それがチップ文化の下に育った彼らの正直な意見なのだ。
日本人はそんなはした金受け取らないんだぜ!と言い返したらけんかになりそうになったので、でも、YUKARIははした金大好きです、と言い添えておいた。事実だし。
ケープタウンには、おしゃれでおいしくておまけに安い(日本人にとって)レストランがたくさんある。先人がこの地で築いた日本人ブランドを是非フル活用してほしい。どこへ行っても暖かく迎え入れられるはずだ。
そして、素敵なウエイターに巡り合えたら、一言でいい、そのサービスへの賛辞と、チップを弾んでください。
それが私たちの唯一にして最高の明日への働きがいだから!
宮城ゆかり
1985年9月6日生まれ / 埼玉県出身
山崎豊子さんの二つの祖国に感銘を受け法律に興味を持ち、法律家を志すもあっさり挫折。かろうじて大学卒業後、OLになるものの一年で挫折。類い稀なる健康体で小学生以来風邪も引かず、虫歯もなく、チャレンジ精神が旺盛なのが取り柄だが先読みが足らず後悔することが大半。
ケープタウンが大好きだけれどおばあちゃんの冷や汁も恋しいと思う24歳。
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(最終更新: 7月 19 日 8:42)
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